卒論・修論の部屋

日米の大学ボランティア・センターとそこでのコーディネーションに関する一考察
中村寿美子さん

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5-1.大学ボランティア・センターの存在意義

 前章までで、ボランティア・センターの歴史やその定義をまとめ、また大学での事例を紹介した。その上で、再度「大学にボランティア・センターは必要なのか」という問いを投げかけてみたいと思う。結論からすると、大学にとってボランティア・センターの存在意義は大きい。この点を考えるためには「大学」と「ボランティア・センター」の二方向から問題の核心に迫っていく必要があるだろう。というのは、比較的新しい"ボランティア"という概念を、社会のなかで既に定着している"大学"というフレームに取り入れることは、その両者の意味や価値、また現在直面しているテーマをそれぞれに問いただすことによってのみ可能になるものと思われるからである。

5-1-1.開かれる大学

 日本における大学の歴史は1869年、明治政府により洋学と医学の学問所を統合し大学校としたのが始めだと言われている。1886年に帝国大学令が出て、1887年には東京帝国大学などが誕生した。1949年には一県一国立制を採用し、大学の数も増えた。2003年には国立大学の独立行政法人化も行われた。昔は、「一握りの限られた人しか大学にいけない」という風潮があったが、戦後から徐々に大学進学率は伸び、2002年では48.8%にまで達している。文部科学省は2007年までには大学全入時代 に至るであろうと発表している(中央教育審議会、2004)。
 一方、アメリカでは、1626年ハーバード大学が設立されたのが大学の始まりである。当時は、聖職者を育成すること、社会のリーダーを育てることが大学の目的で、Liberal Arts(教養)の分野に限った教育機関であった。1798年にノースカロライナ大学(州立)が設立されたことを皮切りに、各州にひとつ以上の州立大学が設立されるようになった。分野もあらゆる領域に関連し、幅広い研究を行うようになる。
 日本とアメリカの大学の歴史には200年ほどの差や、日本が国立大学を中心としているがアメリカは私立大学を中心としているという違いはあるけれども、かつては限られた一部の人の特定の目的のためだったものが、今は全ての人の、全ての分野のため、ひいては社会全般のためと変化してきた点に関しては同じ傾向が見られる。大学は時代に応じて、つまりは社会の要望に応じて、その存在の目的や役割を変化させるものだといってもいいだろう。
 特に今、大学で行われている教育や研究といったものは、大学の中にいる教員や研究者・学者のためのものだけではなく、社会全体で共有するものだ−という世論が聞こえてこないだろうか。「開かれた大学」と銘打って、各大学が市民講座や公開講座などに乗り出すのはその影響があると考えられる。それには大学全入時代を前に、生き残りをかけた大学が主婦や退職者、市民に大学を知ってもらおうというアピールとしての意味もあっただろうが、その「開かれた大学」ブームはボランティアや市民の社会参加が一般的に注目されるようになった社会の変化とも軌を一にしているように思われる。具体的には、1990年代後半、ボランティアが活躍した阪神淡路大震災の1995年から特定非営利活動促進法(NPO法)が制定された1998年以降である。そのあたりからボランティア活動者数も増加傾向をたどり、NPO法人の認証数も年々増加している(図5-1、図5-2)。それだけ多くの人が"ボランティア"を通して社会で積極的に活動の場を広げてく可能性を見つけ始めたということが言える。そういう状況の中で、市民が市民として自分を高めるため、あるいは自分の属しているボランティア・グループのために、大学という教育機関から何かを学びたいという声が高まってきたのではないか。そして、それは、大学で行われている研究がどのように社会や地域に結びついているのかを知りたいという声ともなっていると考えられる。
 その声に応えていくのは大学の責任とも言えるが、では実際にどうすればいいのだろうか。第4章で紹介した大阪大学コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)は、大学での教育や研究について、専門家と非専門家の双方向のコミュニケーションを図ることを目的としており、その意味では、現代の社会の大学に対する要望に応えたひとつの例といえるだろう。しかし、CSCDは大阪大学独自のアイデアでもあり、また大学院生向けの教育機関でもある。
 双方向のコミュニケーションを図るというCSCDの視点は重要であり、ひとつの例として参考にする価値は大いにある。しかし、実際、CSCDという大掛かりな機関をどの大学にも設置することはそう簡単ではない。また、それぞれの大学の特長に合わせて行うことも必要だ。そこで、「開かれた大学」ブームがボランティアへの関心の増加とパラレルであったことも考慮し、大学がその教育と研究を社会の中で開かれたものにしていくツールとして、「ボランティア・センター」を提唱したいと思う。

図5-1:ボランティア活動者数の推移(全国社会福祉協議会、2003年度ボランティア活動年報)
図5-1:ボランティア活動者数の推移
(全国社会福祉協議会、2003年度ボランティア活動年報)
図5-2:全国NPO認証数半年毎の推移(内閣府、2004)
図5-2:全国NPO認証数半年毎の推移(内閣府、2004)
5-1-2.大学にとってのボランティア・センター

 第2章で述べたように、ボランティア・センターはボランティアしたい人とボランティアを受け入れたい人との間にあって、その扉はその双方に開かれ、ボランティアに関する情報や必要な資源を提供する「場」、と定義できる。であるならば、大学内にボランティア・センターを置くことは、大学の内と外の両方にその扉を開く「場」として捉えることも可能である。つまり、専門家と市民のつながりを深めるという意味において、学内にいるボランティアをしたい人(学生)と学外にいるボランティアを受け入れたい人(地域、企業、NPO等)を結びつけるのがボランティア・センターと考えることができる。
 大学がその教育と研究内容を社会のなかで開かれたものにしていく際の窓口として、「ボランティア・センター」を提唱するのは、ボランティア・センターが開かれた大学を作っていく要となるということを意味する。
 第4章では、イリノイ大学OVPのボランティア・コーディネーター自身がコミュニティに出てボランティア・グループに関わる様子を紹介した。これもまた、大学の専門家であるボランティア・コーディネーターを社会と共有するという開かれた大学のひとつの例であろう。明治学院大学ボランティア・センターでは、ボランティア・センターを設置してから、社会貢献をしたい企業などとの協働プロジェクトが増えた。ソニーマーケティング学生ボランティアファンドの事務局を当ボランティア・センターが担っているのはその一例だが、それが学内・学生の活性化につながっていることや、大学自体もまたこの企業との協働によって開かれているものになっているという印象を受けた。あるいはボランティア・センターが中心となって、地域の作業所のパン販売を学内で行うことが可能となったことなどからは、地域に開かれていく大学の新たなあり方が見られる。
 大学は、「大学」という閉ざされた空間だけで教育や研究を行うのではなく、大学の内と外とに開かれていく必要がある。このような大学の変化とボランティア・センターの先進事例から考えても、ボランティア・センターは大学が社会へ開かれるための媒介となりうるものとして、その存在意義は大きいと言える。

5-1-3.大学図書館と大学ボランティア・センターのアナロジー

 では、大学ボランティア・センターの存在意義についてより詳しく追求するために、大学ボランティア・センターと大学図書館のアナロジーで考えてみたい(表5-1)。
 このアナロジーは、大学図書館が大学の第一目的である教育と研究を遂行するために不可欠のものであるのと同様に、現在の大学がその教育と研究を社会に開かれたものになっていくためには"ボランティア"が大学にとって重要であるという前提に基づいている。
 自明のこととしてほとんどの大学には図書館がある。学生や教職員が主に自らの研究のために必要な図書を探すために利用する。また図書館という場で学生は勉強に励むことができる。そこには図書館司書という図書の専門家がいて、主に図書の管理をしている。図書館司書は学生や教職員の研究の評価をすることはないが、ときに図書検索の手助けをしてくれる。大学図書館の充実はその大学での研究活動を充実させる。つまり大学図書館や図書館司書の存在が、学生・教職員の研究活動の向上、さらには大学の向上につながると言っても異論はないであろう。
 そこで、この大学図書館を大学ボランティア・センター、図書をボランティア情報、研究をボランティア活動、図書館司書をボランティア・コーディネーターと置き換えてみる。
 学生や教職員が自らの自主的活動、すなわちボランティア活動に必要な情報を求めてボランティア・センターにやってくる。ボランティア・センターではボランティア・コーディネーターがいて、ボランティア情報やボランティア活動に必要な知識を提供してくれる。また活動上の相談にも乗ってくれる。コーディネーターは職員ではあるが教員ではなく、学生を評価対象としては見ていない。あくまでも学生のボランティア活動を促進及びサポートしていこうという立場である。またボランティア・センターがあることで企業や助成団体から協働プロジェクトなどの申し入れも受けやすくなる。それが大学を開かれたものにし、さらには大学を向上させることにもつながる。

表5-1;図書館とボランティア・センターのアナロジー

大学図書館

  • 学内に設立
  • 学生・教職員が利用
  • 学術書、専門図書
  • 図書館司書が勤務

地域図書館

  • 地域に設立
  • 子どもからお年寄りまであらゆる層が利用
  • 絵本、一般書、趣味の本など多様
  • 図書館司書が勤務

大学ボランティア・センター

  • 学内に設立
  • 学生が利用
  • 学生を対象にしたボランティア情報
  • ボランティア・コーディネーターが勤務

地域ボランティア・センター

  • 地域に設立
  • 子どもからお年寄りまであらゆる層が利用
  • 地域サークル情報やセルフヘルプグループ等多種多様なボランティア情報
  • ボランティア・コーディネーターが勤務

5-1-4.学生にとってのボランティア・センター

 ここからは、大学にボランティア・センターが必要であるという前提に立って論を展開していきたい。
 学生にとってのボランティア・センターは情報の宝庫であり、社会への窓口であり、また自分を成長させてくれる教育機能を持っている組織である。
 既に述べてきたように、日本では1995年の阪神淡路大震災以降、ボランティアへの関心は大きく高まり、今の大学生、そしてこれからの大学生にとってボランティアに参加するということは決して特別なことではなく、むしろ「して当然」のことになりつつある。ところが、現実には日本の青年のボランティア参加率は諸外国に比べ低い数字を示している(図1-1)。それはつまり、ボランティアに関する情報を提供したり、ボランティア活動をサポートしたりする基盤がまだ固まっていないということのひとつの現れではないだろうか
 一方アメリカでは古くからボランティアは一般的な活動であった。学生に対するサポートの整備も、1980年代頃から活発化し、早い段階から大学ボランティア・センターが設置されるなどの試みが見られる。20年以上にわたる学生に対するボランティアの促進及びサポートに関する歴史があると言ってもよいだろう。
 それに比べると、日本はボランティアの歴史はまだ10年ほどである。このアメリカの事例に学び、学生のボランティア活動をサポートすることは、ボランティアをもっと社会への影響力を持つものとして広げていく可能性を持つだろう。
 特に、大学ボランティア・センターがあることは、学生が持っている「何かをしてみたい」という気持ちを現実のアクションに変えるきっかけになる。アクションを起こすには、情報が必要であるが、ボランティア・センターは学生がボランティア・アクションを起こすのに必要な「どのような場所で、どのような時に、どのようなボランティアが、望まれているのか」という情報を与えることができる。さらにはボランティアに対する考え方やボランティアにまつわる様々な知識も提供する。それらによって学生はボランティア・アクションを起こすきっかけをつかめるのである。
 また、学生はボランティア・アクションを通して、社会との接点を持つことができる。社会とは、例えば、地域の老人ホームであったり、企業であるというような大学の外や学生同士の付き合いを超えたものを指す。そのどれであれ、ボランティア・センターで得た情報をもとに起こしたボランティア・アクションは大学を超えた社会へのアプローチなのである。学生は、社会へと通ずるその活動の中で、学生が大学では学べないことを自らの意志で目的と責任を持って体験していく。そして「自分の中で何かが変わった」「自分自身の活動に意味と目的と責任を得た」と思えるなら、「ボランティアによって自らが成長できた」、ということになるのであろう。
 ボランティア・センターの情報によって、学生は社会へと飛び出し、そこでのボランティア・アクションを通じて自らを成長させることができる。そのことは学生にとってボランティア・センターの存在意義と呼んでいい。ボランティア・センターはそのひとつひとつのステップに対して、評価ではなく、相談やサポートを行う。それがまた、学生の主体的な活動を応援することにもなる。
 ボランティア・センターは学生にとって情報の宝庫であり、自らを成長させてくれるバックアップ機関でもあり、また、社会へ通じる道と言ってもよいだろう。

5-1-5.地域にとってのボランティア・センター

 社会福祉協議会の取り組みからも分かるように、ボランティア・センターは地域にも多数存在する(図3-2)。そのことに対して、地域にあるのだからわざわざ大学にボランティア・センターを置く必要はないのではないか、という意見もあるだろう。
 しかし、ここでまた大学図書館とのアナロジーを考えてみよう(表5-1)。先ほどほとんどの大学には図書館があると述べたが、それこそまた自明の理として地域にも図書館は必ず存在する。だが、地域に図書館があるのだから大学には図書館はいらない、という意見は通るであろうか。いや、そんなことはない、地域は地域で、大学は大学で、図書館は必要である。それはなぜか。
 理由はたくさん考えられるであろう。そのうちのひとつとして、まず地理的な理由がある。大学で学生や教職員が彼らに必要な図書を探しに、大学内ではなくその外にある地域の図書館まで足を運ぶということははなはだ不便であろう。研究意欲が萎えることさえあるかもしれない。学生や研究者にとって、いつでも足を向けることができる身近なところに自分の必要な図書や資料があった方が格段に便利だということは想像に難くない。第二に、専門性が理由として挙げられる。大学図書館には一般書よりも専門書の方が充実している。それは大学図書館が研究に必要な図書を所有しているからだ。逆に地域の図書館では、こどもからお年寄りまで幅広い利用者がいるため、絵本などをはじめ趣味の本、一般雑誌や一般書が整えられている。
 つまり、大学図書館と地域図書館では同じ図書館であっても、利用者や利用目的に違いがあるし、それに対応するかたちで蔵書図書も異なっている。そして、そのどちらもが必要とされるのである。
 ボランティア・センターも同様に考えることが可能だ。すなわち、大学ボランティア・センターと地域のボランティア・センターは同じボランティア・センターであっても対象とする人、そして利用目的が異なり、それにあわせるかたちで提供するボランティア情報も異なってくる。大学ボランティア・センターを利用するのは学生である。それゆえにそこには大学生を対象にしたボランティア情報が集中する。大学ボランティア・センターに情報を提供する側にとっては、大学ボランティア・センターを通して、大学生を効率よく募集することができる。反対に地域のボランティア・センターでは、子育てグループや、各セルフヘルプグループなどの募集、お年寄りや子ども、主婦を対象としたボランティア情報が多い。
 このように大学ボランティア・センターがあることで、地域のボランティア・センターとの役割分担が可能になる。それは結果的に、大学にとっても地域にとっても、そのどちらものボランティア活動を促進することになるだろう。

5-2.ボランティア・センターでのコーディネーション

5-2-1.タイプ別ボランティア・コーディネーション

 第3章では、ボランティア・コーディネーションの組織タイプには、「中間支援組織型」、「ボランティア送り出し型」、「ボランティア受け入れ型」の3つがあると述べた。しかし、大学ボランティア・センターは、ボランティアを受け入れることはあまりないため、前2者のどちらかの組織タイプに属する。すなわち、「中間支援組織型(活動希望者と社会の様々なニーズをつなぐことを役割とするタイプ)」と、「ボランティア送り出し型(学校、企業など自らの設置目的と事業を持ちつつ、構成メンバーがボランティア活動にも参加するタイプ)」である(筒井、2004;p61)。
 アメリカの大学ボランティア・センターの場合、大学がコミュニティの中心となっている例が多く、またその目的もコミュニティとの連携を掲げているところが多いため、大学ボランティア・センターを「中間支援組織型」とみなしているところが多い。一方、日本のボランティア・センターは学生がボランティア活動をするきっかけ作りの場として設置されている場合が多いため、「ボランティア送り出し型」と考えられる。
 筆者はここで、「中間支援組織型」、「ボランティア送り出し型」に付随する大学ボランティア・センターであるがゆえの特長として、「コミュニティ形成」と「学生育成」という2点を提示したい。
 ここでの「コミュニティ形成」とは、ボランティア・グループや個人のボランティアがばらばらに活動する状態から、お互いに情報交換をしあったり、悩みを相談し合ったりするなかで互いのつながりを強め自分たちの活動を高めていけるようになること、そのような意味でのコミュニティの形成、あるいは再生のことを指す。「中間支援組織型」の運営では、大学ボランティア・センターは大学とコミュニティの中間に位置して、大学だけではなくコミュニティにも深く関わるため、ひとつの通路としてコミュニティの自発的な形成に資すると考えられる。
 これに対して大学ボランティア・センターが「ボランティア送り出し型」として学生の育成をするということは、自発性を伴う学生のボランティア活動を支援するという点で、結果として学生の社会に対する関心や責任、また自発性の向上、あるいは企画力や自己表現能力を高めることを指す。
 以上のことから、大学ボランティア・センターでのコーディネーションは、「中間支援組織・コミュニティ形成型」と「ボランティア送り出し・学生育成型」の2つに大別することができる。

5-2-2.コーディネーションタイプの広がり

 第4章では日米のボランティア・センターの簡単な比較を試みたが、その違いをコーディネーションタイプで表すと、先述したようにアメリカの大学ボランティア・センターを「中間支援組織・コミュニティ形成型」、日本の大学ボランティア・センターを「ボランティア送り出し・学生育成型」と分けることができる。
 しかし、このコーディネーションタイプの分類は完全なものではない。「中間支援組織・コミュニティ形成型」でも学生の育成は行われているし、「ボランティア送り出し・学生育成型」でも学生がコミュニティに関わることでコミュニティの発展に貢献している。だが実際、事例研究を通した印象では、アメリカの大学ボランティア・センターが地域により開かれたものであると感じられた。それには、コミュニティのあり方や規模、また大学のコミュニティでの存在意味そのものが日米で異なるという理由も反映されているとも言えるが、それに敢えて目をつむるなら、大学が社会に対してどれだけ開かれたものになっていくべきなのかという大学に関する当事者の意識の違いだとも考えられる。
 その意識は、これからの日本の大学における教育と研究を社会のなかで開かれたものにしていくための変革が求められる中で必要とされているものだ。その上でボランティア・センターの必要性を叫ぶなら、そのボランティア・センターにおけるボランティア・コーディネーションのかたちも必然的に変化していくと考えてもよい。つまり、大学ボランティア・センターには、「学生育成」に加えて、「コミュニティ形成」の要素がこれからより一層求められていくということであり、それは、社会に開かれた大学という問題意識に照らせば、自然な流れといえるのではないだろうか。
 アメリカと日本の大学ボランティア・センターの歴史の差は約20年ほどである。"ボランティア"の歴史に至ってはその差はさらに大きい。その歴史を考慮すると、アメリカの大学でもボランティアが根付くまでは、当初の大学ボランティア・センターは学生をボランティアとしてコミュニティに送り出すということに主眼を置き活動してきたとも考えられる。それが、学生にある程度ボランティアの意識が根付いたところで、コミュニティへ積極的に関わるようになり「中間支援組織・コミュニティ形成型」へと広がってきたともいえるのではないか。
 事実、日本の大学ボランティア・センターとして先駆的な取り組みとして紹介した明治学院大学ボランティア・センターでは、設立5年目を迎えて、地域での取り組みが活発になっている。最初はボランティア・センターの主の業務として学生スタッフの募集や研修から始まったが、次第に学生スタッフの募集は学生スタッフが行えるようになり、ボランティア・センターとしてはそのバックアップを取るだけで運営できるようになった。それに伴い、コーディネーターも地域の研修会で講演したり、企業とのミーティングに参加したりするなど、中間支援組織としての活動の範囲を広げていったのである。
 そのような事例をみると、今、日本の大学ボランティア・センターが果たしている「ボランティア送り出し・学生育成型」の要素に「中間支援組織・コミュニティ形成型」の要素が加わり、その役割も自然に広がっていくと考えることもできる。

5-2-3.大学ボランティア・センターとコミュニティ

 ボランティア・センターの中間支援組織型運営がコミュニティ形成に関わっていくこと、そして、大学ボランティア・センターが担っている「ボランティア送り出し・学生育成」の要素に「中間支援組織・コミュニティ形成」の要素がこれから加わっていくだろうことを述べた。
 では、ボランティア・センターとコミュニティとの関わりについて考察を深めることにする。まず、ここでいうコミュニティとは何を指すか。本論第1章でも指摘したように、アメリカと日本ではコミュニティのあり方は異なっている。アメリカ国内、日本国内でも、都市部や地方によって異なるであろう。大学ボランティア・センターとの関わりにおいてのコミュニティなので、コミュニティを大学が所在する市区町村、あるいは学生が住む街という捉え方も可能だが、ここではコミュニティを大学の外の空間と幅広く捉えたい。大学の外で活動しているNPO団体やボランティア・グループ、あるいは社会貢献を行う企業が大学ボランティア・センターにとって、コミュニティとしての関わりを持ってくるのである。
 ここでなぜ、「大学の外」という言葉を使うのかというと、これからの大学は社会へ開かれていかなければならないと考えたとき、ボランティア・センターが1つの通路として大学の内と外をつなげる役割をすると考えられるからである。つまり、ボランティア・センターがコミュニティに関わるということは、ボランティア・センターを通して大学が社会に開かれていくということだと言える。

5-2-4.大学ボランティア・センターでのボランティア・コーディネーション

 以上述べてきたことをまとめると、大学ボランティア・センターでのボランティア・コーディネーションについて、試みに図5-3のように表してみる。
アクターはボランティア・コーディネーター、学生、そしてボランティア・グループ(NPOや社会貢献を行う企業も含む)である。ボランティア・コーディネーターはボランティア・センターにとって必須の専門職として大学ボランティア・センター内に存在する。前者2つのアクターは、大学のなかのものであり、後者はコミュニティひいては社会に存在するものである。中央に引かれた線は、その存在の場所の違いを表している。その線が点線になっているのは、ボランティア・センターによって、大学が社会に開かれたものになってくる様子を示しているからである。
 コーディネーターと学生の関係は、「学生育成」というボランティア・センターの要素のもと、コーディネーターが学生への情報の提供、自発的活動の支援などを中心に行い、学生もまた自らの活動を報告あるいは相談するという関係を示す。ボランティア・センターとボランティア・グループの関係は、「コミュニティ形成」の要素のもと、ボランティア・センターが中間支援組織として、ボランティア・グループの積極的な交流やつながりを進めるために助言やアドバイスなどを行うという関係である。ボランティア・センターが学生をボランティアとして送り出す先がボランティア・グループであり、学生はコミュニティにあるそれらのグループで活動することになる。
 しかし、大学ボランティア・センターのボランティア・コーディネーションでは、この三者だけで循環しているわけではない。他にも多くのアクターがあるとも思われるが、ひとつの象徴として図式化した。
 更に、この図のなかで、3つのアクターの関係とともに注目すべきことは、ボランティア・グループが存在するコミュニティは社会全体を代表し、大学ボランティア・センターは大学を代表しているということだ。ボランティア・センターとコミュニティのつながりができ、コミュニティ形成も成し得た場合、大学はそのつながりを通して、社会ともつながっていけるという構図である。大学に求められている社会とのつながりが、ボランティア・センターによって促進できる可能性もあるのである。
 まとめると、この図は大学ボランティア・センターの「ボランティア送り出し・学生育成型」と「中間支援組織・コミュニティ形成型」の両方の要素を示し、そのボランティア・センターを通路として大学と社会が連携できる様子を表している。これが、今まで述べてきたボランティア・センターの役割を統合して求められるコーディネーションの1つの例である。

図5-3.大学ボランティア・センターにおけるボランティア・コーディネーションの位置づけ(中村試作、2004)
図5-3.大学ボランティア・センターにおける
ボランティア・コーディネーションの位置づけ(中村試作、2004)

5-3.大学ボランティア・センターの今後の展望と課題

5-3-1.「ボランティア実践」と「ボランティア研究」

 大学ボランティア・センターは「ボランティア実践」を主としている。それに対して、大阪大学の例にもあった「ボランティア研究」がある。既に述べたが、ボランティア研究とボランティア実践は、その根本的な性質を異にしている。
 大阪大学にボランティア人間科学研究科が出来た経緯を見ると、大学という研究を主とした機関に、実践を主とするボランティアを持ち込むことは実は困難を極めるものだったことが分かる。更には、大学は言わば権力とコントロールの世界であるが、そこに自発性を基本とするボランティアはそぐわないのではないかという問題もあった。学者はボランティアが果たして研究テーマになり得るのかを懸念し、実践家は研究によってボランティア活動が邪魔をされることを懸念した。しかし今、ボランティアは多くの学者が注目する立派な研究テーマである。そして実践家も、あらゆる機関で自らの活動を論述・分析するということを始めた。その際、「ボランティア研究」と「ボランティア実践」という性質の違うものが、排斥し合うのではなく、互いに高め合う形で、協調しあうことが求められる。それゆえに、「ボランティア研究」と「ボランティア実践」の両者の役割分担と目的の明確化を図らねばならない。
 まず、大学のボランティアに関する研究科は「研究の場」なのであるから、そこにボランティア活動の実践を持ち込んではいけない。研究科は研究機関として、ボランティアに関する理論や行動論、あるいは制度論などを論じていくのが本質であるはずだ。ボランティアの実践は、ボランティア研究そのものにはならないのである。それはつまり、ボランティアを扱う授業にボランティア活動を取り入れることは意味を成さない、ということと同じである。授業でのボランティアの実践は、ボランティアが単位認定の対象となるため、ボランティアの基本である自発性が失われる可能性がある。皮肉にも、ボランティアがボランティアでなくなるという本末転倒の事態になるのである。
 逆に、大学ボランティア・センターは「実践の場」なのであるから、そこに研究や授業を、持ち込まないことが必要である。ボランティア・センターはあくまでも学生を現場に送り込み、地域との協働によって自発的で社会的な活動を行うということが設置のもくてきであるはずだからである。その際には、企業との連携や大学の学生主体のイベントやサークルとの連携もあるだろう。しかし、実践は実践である。ボランティア・センターが主体となって、研究や授業に参加することは、それはボランティア・センターの進むべき方向ではないはずである。
 また、逆に研究科があるのだからボランティア・センターはいらないという考えも聞かれたりするが、それも違う。ボランティアに関する理論と知識を学生に講義するのは大学のカリキュラムのひとつとしてふさわしいが、ボランティアをコーディネーションするのは研究科の役割ではない。
 研究には研究の、実践には実践の、その目的と方法がある。研究と実践の混同は、どちらも本領を発揮できない結果になるのではないか、と危惧される。つまり、ボランティア実践とボランティア研究はそのどちらも大切であるが、混同してはいけないということだ。今後はそのどちらをも有効的に伸ばしていくことで、"ボランティア"の促進ということが生まれてくるのではないかと思われる(図5-4)。

図5-4:ボランティア研究とボランティア実践の関係
図5-4:ボランティア研究とボランティア実践の関係

5-3-2.多種多様なボランティア・ニーズへの対応
 ボランティアという考えが広まるにつれ、ボランティアへのニーズもその幅を増している。グローバリゼーション、環境、福祉、災害といった分野(厚東、1999)を越え、世界の紛争地域でのNGOの取り組みや、あるいは介護保険制定後の高齢者福祉分野でのボランティア活動の取り組みなど、ボランティアに求められることも多様化し、それに合わせてボランティア活動そのものも変化してきた。
 それとともにボランティアする人自身の考えも変化し多様化してきている。かつては何か偽善だと感じていたボランティア活動に対して、今では子どもからお年寄りまで、自分の出来る範囲で、自分の得意とする分野を生かして、何らかのかたちでボランティアに取り組もうとする人が増えている。また、個人だけではなく、企業を中心にした営利団体と呼ばれる組織でも、社会貢献という活動が盛んになってきた。特定非営利活動促進法(NPO法)が制定されたことで、地域でも次々とNPO団体が誕生した。
 大学ボランティア・センターはその状況を的確に反映して、活動していかねばならないだろう。ニーズの多様化に対しては、様々な分野に興味関心を持った学生を、学生が出来る範囲でボランティアとして社会に送り出していくというコーディネーションが求められる。また、要請があれば、企業や他団体、地域のボランティア・グループとの様々な社会貢献事業などを共同で実施することも必要であろう。
 ボランティア活動が浸透するほどに、多種多様なボランティア・ニーズが予想されるが、それに対応できるような大学ならではのボランティア・センターの柔軟な取り組みが期待される。
5-3-3.大学ボランティア・センターからの発信
 本論では、大学ボランティア・センターを大学と社会とを結びつける通路として提唱してきた。また、ボランティア・センターという実践の場を大学内で発展させることで、「学生育成」という大学本来の教育目的に加え、「コミュニティ形成」という要素も生まれてくるのだということも述べた。
 大学が研究や学生への教育に終始せず、大学ボランティア・センターを媒介に社会に開かれていくというこの構図は、これから大学が歩む新しいひとつの方向ではあるまいか。大学ボランティア・センターは、大学がその教育と研究を様々な新しい諸問題を抱える社会に対して開いていき、ともに解決を図ろうとすることの重要性や、実践の場を大学内に取り入れることの有効性を大学の内外に発信していくことができるのである。 

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