すてきな本を読んだ。
「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条令」が成立するまでを書いた『条令のある街』(
ぶどう社)だ。
2月19日の朝日新聞夕刊のコラム、「窓−論説委員室から」の書き出しです。そして、こう結ばれています。
本の著者は毎日新聞社会部副部長の野沢和弘さん。重い障害のある息子の親として研究会を引っ張った。
一人の県民として記者として、このような体験を積むことができた野沢さんを、心からうらやましいと思う。
(川名紀美)
前代未聞といってもいいコラムです。
メディアの特技は、言行不一致(^_-)-☆
省庁の縦割り、縄張りを厳しく批判するのに、競争相手のメディアがどんなに良いことをしても、「褒めるのはご法度」という暗黙の慣例があるのです。
それを破った川名さんも偉いし、破らせるような本を書いた野沢さんも凄いと、元新聞記者の私は感動してしまいました。
昨年夏の「ウォロ」に、「ゆき@嵐の中の差別をなくす条令です」を書きました。いつもの「にっこりマーク(*^^*)」ではなく、「泣きべそマーク(;´_`;)」をつけました。
絶対多数を占める千葉県の保守系県会議員団が、日本初のこの条令の成立に大反対していたからです。こんなチラシも配られていました。
「こんな条令は即刻廃棄、審議するのは時間と税金の無駄」
「条令は、"障害者"と言い張る人とその"支援者"に特権を与えます」
「"障害者"と健常者相互の間に憎しみを生み、千葉県を冷たい殺伐とした県にしてしまいます」
右の写真は、その条令が、昨年(2006年)10月11日に成立した瞬間の写真です。
拍手の音が聞こえない人々の流儀で、みんなが、キラキラ星のような"拍手"をしています。
知的なハンディを負った、あるいは、自閉症の青年の姿が写っています、お医者さんの姿もみえます。
かたくなだった議員の心を変えた理由の数々については本を読んでいただくことにして、毎回傍聴席を埋めた人々の姿が、原因の1つだったことは間違いありません。
千葉県議会始まって以来の傍聴者に感激した守衛さんたちが、まめまめしく世話を焼く姿が印象的でした。
お役人が下書きを書き、役所にとって気心の知れた委員、高名・多忙で案文を読む暇もない委員がお墨付きを与える、という政策立案方式が、日本では伝統になっています。
堂本暁子知事誕生がきっかけで、千葉県では、これが大きく変わりました。
その問題を四六時中考えている公募の委員が白紙状態から政策を考え、県庁職員は裏方に徹する、「健康福祉千葉方式」です。
第3次障害者基本政策を策定したときもそうでした。
その中で「国が障害差別禁止法をつくろうとしないなら、県で条令をつくろう」という提案があり、報告書に盛り込まれました。
そして、2005年1月、「障害者差別をなくす研究会」がスタートしました。
3枚の写真は、2月の出版記念会のときのものです。
右上は、裏方をつとめた県庁の面々、左上は、県議会の傍聴席を埋めつくす原動力になった女性たち。
右の写真は、条令の原案を1年がかりでまとめあげた研究会の面々です。29人の応募委員のなかには、県庁を困らせてきた県内の有名な"運動家"もいました。耳の聞こえいな人、目の見えない人、知的なハンディのある本人、精神病を体験した人、車いすが必要な人、親として苦労している人、不動産業やホテル業など、差別しがちな立場にいる人……実に様々な人々が、手弁当で、夜の会議を重ねてゆきました。
利害が対立する委員の意見を、座長として纒めあげたのが野沢さん(写真中央)でした。
副座長は、視覚に障害のある高梨憲司さんと自閉症のある息子の父で法律家の佐藤彰一さんでした。
高梨さんは、独特のユーモアで障害のない人々を納得させてゆきました。たとえば−−
◇
神様のいたずらで、目の見えない人が多数派になったら、私は市長に立候補します。
たぶん当選するでしょう。
私はこう宣言します。「財政も厳しいし、地球環境にも配慮しなければならない。街灯を撤去することを決めました」。
目の見える人が抗議にきたら、こういいます。
「お気持ちは分かるけれど、一部の人のワガママにはつきあいきれません。私たち"一般市民"には夜の灯は必要ないんですから」と。
◇
車いすの人のトイレをつくろうとすると「一部の人」「財政が」という壁が立ちはだかります。その理不尽さをわかりやすく説いたのです。
高梨さんはまた、条令案に障害のある人の義務を盛り込みました。
「障害のある県民及びその関係者は、障害のあることによる生活上の困難を、周囲の人に対して積極的に伝えるようつとめるものとする」
昨年暮れ、国連総会で、「障害者の権利条約」が全会一致で採択されました。教育や就労の差別を幅広く禁止する画期的なものです。
20か国が批准した時点で発効しますが、日本はまだ批准を検討中の段階です。
多くの先進国がもっている障害者差別禁止法も、日本にはまだできていません。
「条令のある街」が、千葉から全国へ広がるのは、これからです。
(
大阪ボランティア協会の機関誌『Volo(ウォロ)』2・3月合併号より)