優しき挑戦者(国内篇)

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(38)患者をつなぐ、患者会をつなぐ、政策につなぐ

 思いがけなく病に見舞われた人々をつなぐ「道しるべ」となる本が、静かなブームを巻き起こしています。
 『がん!患者会と相談窓口全ガイド』(三省堂)『全国患者会障害者団体要覧』(プリメド社)『患者の声を医療に生かす』(医学書院)です。

写真@:相次いで出版された、患者組織を支援する本 写真@:相次いで出版された、患者組織を支援する本 写真@:相次いで出版された、患者組織を支援する本
■患者の一言から、1442団体に■

 プリメド社の『要覧』の初版が出たのは96年暮れでした。
 その前年、編集者の鎌田昌彦さんは、『退院後のがん患者支援ガイド』をつくっていて、患者会の人々と出会いました。その一人から出たという一言が、鎌田さんの心を揺さぶりました。
「誰にも相談できずにひとりぼっちで悩んでいる患者が多いのです」

 「そのような人に、同じ立場の人が集う患者会を紹介したい」という思いに駆られ、前人未到の要覧づくりに取り組みました。団体の連絡先だけでなく,活動の目的や内容,会員の動向,入会方法,相談窓口等をできるだけ詳しく掲載しました。索引を充実し、さまざまな手がかりから目的の団体を検索できるように工夫しました。
 昨年出版された第3版には、患者会と障害者団体1442が納められています。

■"あったらいいな"を求めて■

 『全ガイド』を編集した和田ちひろさんが患者会と出会ったのは99年のことでした。「患者満足度調査」を研究していた和田さんは、もどかしさを感じていました。病院を通じて回収したアンケート調査では8割が「病院に満足」と答えるのです。遠慮しているのではないか、どうしたらホンネに近づくことができるだろうか、模索から患者会の存在を知りました。
 三省堂の編集者、中野園子さんと出会い、『病気になった時、すぐに役立つ相談窓口・患者会1000』を出したのは、その翌年。先輩の『要覧』が保健所や福祉事務所の専門家を意識してつくられていたため、患者自身が手にとることを意識してつくりました。

 2003年、和田さんは、「患者さんの"あったらいいな"を実現するために、いいなステーションを設立」しました。同じ病気の人に出会いたい、自分の病気について知りたい、闘病経験を生かしたいという願いにこたえるために、様々な活動をしています。患者会の情報収集と提供、患者の自己学習環境の整備と支援、患者自身が医療系の学生に闘病経験を語る「患者講師」の育成……。
 その活動の中で、がんの患者会に限った改訂版を刊行。約500の関連団体が載っています。本に登場した患者組織の代表が中心になって、2007年6月、「患者会マネジメントセミナー」も開きました。左下の写真は、患者組織の共通の悩みである資金調達について、かつて寄付する側にいた講師の話をもとにディスカッションしているところです。
 右下の写真は、仲間を励ますサイトを立ち上げた乳ガン体験者野田真由美さん(写真中央)、悪性リンパ腫のネットワーク「グループ・ネクサス」の片山環さん、野田さんを相談員に迎えた千葉県がんセンター長の竜崇正さん(右端)が参加した公開シンポジウムの模様、左端がちひろさんです

写真A:資金調達のノウハウについて、非公開で、智恵を絞りあう患者組織のリーダーたち 写真B:公開シンポジウム、左端が和田ちひろさん
■インターネットを駆使して■

 プリメド社は、ホームページをもっている組織については、http://www.primed.co.jp/selfhelp/で惜しげなく、紹介しています。いいなステーションも「患者会・患者コミュニティサイト リスト」をhttp://www.e7station.com/html/kanja-kai/に公開しています。患者会情報もインターネット時代に突入したようです。

 いいなプランナーの池上英隆さんはいいます。
 「『全ガイド』に掲載されたインターネットだけの患者コミュニティは50ですが、実際にチェックした数は2000ほどです。該当の病気のサイトを一つ見つけて、そこからひたすらリンク集をたどるという原始的な方法でサイトをピップアップしていきました。それを@情報の量、新しさ、オリジナリティ、正確さ、A互いの交流Bリンク集の充実さで絞り込みました」

■癒し・情報提供からロビイングへ■
写真C:左から2人めが故・三浦捷一さん、3人目が故・佐藤均さん

 患者会の活動は@患者同士の癒しA患者への情報提供Bロビイングにしばしば分類されます。東大医療政策人材養成講座特任准教授の埴岡健一さんはこう分析します。
 「@やAに積極的なところはBについては、消極的なところが多かった。『政治は汚いもの』という先入観や、『激しすぎる』という無理解が存在していたからでしょうか。しかし、全国から患者が集まったがん患者大集会で尾辻厚生労働大臣に要望書を渡す光景をみて、Bに目覚めた団体もたくさんありました」
 原動力になったのは、いまは亡き三浦捷一さん(上の写真の左から2番目)と佐藤均さん(3番目)の、命を削るような活動でした。

■提言能力と組織力と代表性と■

 埴岡さんは、『全ガイド』の中で、こう述べています。
 「これからは、政策提言能力と組織力の強化が欠かせない。その最初のステップは事務局機能を確立だ。しかし、常勤の事務局員を確保できている団体は、ほとんどない。創設者や一部の幹部の個人の才覚で切り盛りされていることが多い。『代表性』を明確にするために、全国統一患者団体の設置も継続的検討課題だろう」

 下の2つのサイトは、すでに、それを実現しているデンマークの患者組織連合体(右)障害者組織連合体(左)です。デンマークでは、事務局スタッフの人件費を国が支援しています。患者組織の会員は、あわせると100万人。この国の人口の20%にもなります。行政も政治も一目おかざるをえないのです。

写真D:左が障害組織の連合体、右が患者組織の連合体のサイト。デンマークでは、事務局スタッフを国が支援 写真D:左が障害組織の連合体、右が患者組織の連合体のサイト。デンマークでは、事務局スタッフを国が支援

大阪ボランティア協会の機関誌『Volo(ウォロ)』7・8月号より)

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