ことしもまた、新たな縁(えにし)を結ぶ会 '08!
―新たな「えにし」が生まれること、結び付きが一層強くなることを願って―
根岸:
<チベットの鈴の音>お待たせ致しました。福祉と医療、現場と政策の新たなえにしを結ぶ会、年に一度のえにしを結ぶ会を始めさせていただきます。総合司会を務めさせていただきます、NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンクの根岸親(ちかし)と申します。<拍手>
〔情報保障紹介〕
〔配布資料確認〕
〔プログラム説明〕
〔第1部 登壇者紹介〕
―経済財政諮問会議と「骨太方針」の「呪い」―
樋口:早速始めさせていただきます。タイトルにありますように、「福祉と医療を中心に、社会保障のこれからを考える〜経済財政諮問会議の呪いから逃れるために〜」<「呪い」を強調>。これ、最初は「呪縛」とあったんですが、あの、何か少し柔らかくするように「呪い」になったようでございます<会場笑>。まあ、むしろしっかり意味が見えてきたと思いますけれど。今、私達が本当に格差が大きく、かつ、生きる安全や安心が脅かされて、本当に日々不安心が高まっている。これの、最大の理由は、今日これからお話いただくことでございますけれど、経済財政諮問会議、この名前は私達絶対に忘れはしまい。
一体、ここで何が行われているか。2006年までの過去5年にわたって、社会保障費は削減されてきました。そして、今、私達がその只中にいますのは、2006年に「骨太の方針」というものが出されまして、その中で引き続いて、今後の5年間で、1兆1千億の社会保障費の伸びを抑制する、ということが決められまして、2006年度、厚生省は、2千2百億を生活保護の母子加算とか、雇用保険などを中心に減らしました。そして、2008年度でも減らしている。2年続いているこの抑制が、まさに「呪縛」「呪い」でございまして、皆様方、地方の生活を直撃しているのであります。
一体この、経済財政諮問会議というところで、何が行われているのか、何がどう決まって、日本の政策がどう動いてきたか。経済財政諮問会議で、厚生労働大臣として呼び出されては集中砲火を浴びてきた尾辻秀久さんから、まず、その全貌をご説明いただきたいと思います<会場笑>。よろしくお願い致します。<拍手>
―日本の社会保障のために、経済財政諮問会議に、ものを言っていきたい―
尾辻:尾辻でございます。厚生労働大臣をさせていただきましたときに、大熊由紀子さんには大変ご指導いただき、その後もまたずっと、お世話に相成っております。
―「国会決議なんて無視すればいい」という民間委員の思い上がり体質―
尾辻:そもそも、経済財政諮問会議っていうのはどういう存在かって言いますと、これはちゃんと、法律で定められておる存在であります。総理に諮問する会議なんです。ところが、総理に諮問する会議なのに、なんと座長は、諮問される総理が務める。これはやっぱりおかしいというふうに思います。ですから小泉さんみたいに、これうまく使おうと思えば、自分に仕掛けて諮問をさせといて、諮問会議に言われたんだからやるぞー、と、もう全部これで済んでしまうということになります。
4人の民間議員という人達がいます。その4人の内訳は、2人が財界の方でありまして、2人が学者さんであります。この4人が、一方的にものを言います。4人が一斉にものを言うわけでありますから、せめて、1人が言ったときに、その1人に対して私に反論させてくれ、と言ったんですが、それも許されず。4人に一方的にまくし立てられた後、あんまり時間もないから最後に10分やるから、10分で反論しろと言われる。
一番、象徴的な、この人達の体質、思い上がりを申し上げますと、私がこういうことを言ったことがあるんです。あなたがたの言うことと、国会決議と反する。国会決議に反することをやれというのか、と、こう言いましたら、なんと、「国会決議なんて無視すればいいんだ」と言い放ったのであります。これ事実であります。
私は、本人が覚えてるんだから、覚えてる本人が、自分の責任で発言するから構わんでくれ、とこう言いましたら、またその晩こっそり来て、当時の人達に聞きましたら、そういう事実があったようでございます、などと言っておりました。したがってまぁこれは、まったく事実でありますけれども、これが、経済財政諮問会議、民間議員の思い上がりを象徴した話だというふうにお聞きをいただきたいと思います。
―「5年間で、1兆1千億削れ」―
尾辻:経済財政諮問会議と今後、まだやりあわなきゃいけませんけれども、一番の問題は、彼らは、とにかく、もう、経済そして財政至上主義者でありますから、財政を立て直さなきゃいけない。そのためには、まぁちょっと言葉は過ぎるかもしれませんけれども、国民が泣こうと知ったことかというくらいの感覚の人達だと思います。
誤解のないように申し上げておきますと、社会保障費っていうのは義務的経費が大半でありますから、自然増を致します。お年寄りに対しては、これだけのことをしなきゃいけないっていうのは、ほとんど法律に書いてありますから、そうしますと、お年寄りの数が増えれば、当然自動的に、そのお金は増える。その当然増える、ここから、1兆1千億削れ、と言ったんだということは、誤解のないように申し上げておきたいと思います。
―乾いた雑巾しぼったって水なんか出やしない―
さぁこの後どうするか、という議論になったときに、引き続き彼らは、これからの5年間も同じようにやれ、と言いました。で、大議論したんです。もう絶対そんなことはできないと言い、まぁ色んな抵抗をしましたが、せめて私どもにできた抵抗は、今後の5年間について、「これまでの5年間を踏まえて」という(言葉)、実は「5年間と同じように」と書くと言ったのを、「踏まえて」に、せめて書き換えさせたというのが、抵抗をした、まぁ結果であります。毎年これもやりあうんですが、経済財政諮問会議、財務省は、「踏まえて」と言ったってこれは「同じように」ということなんだから、2千2百億削れという意味だと言い、昨年度も、そして4月1日から始まった今年度も、何とか2千2百億を削ってきました。しかし、もう今年の予算の中で2千2百億削減するためにどんなことをやったかなんていうことを、申し上げると、もう、これまた大変長い話になるので、申し上げません。
ただ、医療関係者も沢山お見えでしたから、一言申し上げますと、一時期、診療報酬で全部削れと言ったんです。そうするとどうなるか。診療報酬で2千2百億削れって言いますと、今、だいたい診療報酬1パーセントで、国の持ち分8百億減りますから、8百分の2千2百パーセントを削らなきゃいけない。ひところ、「3パーセントの診療報酬カット」と言ってたのは実はそういう話であったわけであります。
そして、6月に毎年彼らが「骨太の方針」っていうのを書くんです。「骨太の方針」というのは、来年度予算をどういうふうに組むかの基本方針だと思っていただければいいんです。それを、今年の6月、彼らが書きます。ここで絶対に2千2百億、また削れと書こうとしてますから、これを書かさないことが、我々の勝負だという、まさに呪縛から逃れるにはそれしかない。ということを申し上げて、私のまずこれまでのお話にさせていただきたいと思います。今日はどうぞよろしくお願い申し上げます。<拍手>
―骨太の骨だけ残って血も肉も無くなる―
樋口:ありがとうございました。驚きましたね。経済財政諮問会議、法律に則った組織とは言いながら、議会制民主主義を否定するようなやりとりが、そこで行われているなんてことは、今日は本当に、お話を聞いて、初めてよくわかりました。骨太の方針が6月だそうでございまして、今日はとてもいいチャンスだと思います。骨太の骨だけ残って血も肉も無くなるというのが、これからの方針次第によってはそうなると思います。
そのような政策が、では、より身近な都道府県にくると、どのようなことになるか。堂本知事は、障害者の問題をはじめ福祉に一生懸命取り組んでいらっしゃいましたけれど、今どうでしょう。千葉県ではどうなっておりますでしょうか。
―ふやさなければならないときに減らした、うまくゆくはずがありません―
堂本:ええ、もうとても大変です。今、尾辻さんおっしゃったようなことが、実際に現場でどういうことになっているのか。今日もここに集まっていらっしゃる方は、一番よくご存知だと思います。
2001年、森総理のときに始まった、この経済財政諮問会議なんですけれども、2003年に、―ちょうど私が知事になった年です―、2003年に、今度は小泉総理になられて、競争力、成長力、財政健全化というのを高らかとうたったのは、2006年の「骨太の方針」でございます。それからというもの、福祉関係の制度が変わりました。自立支援法、介護保険、1兆1千億増やしても足りない。そのくらい、増やさなければならないときに、これだけ減らしたのですから、うまくいくはずがございません。
自立支援法を例に挙げて言わしていただきますと、身体障害、知的障害、精神障害のうちの精神障害が、今までの福祉サービスの対象になっていなかった。それを、三障害を一緒にしようという、この理念は、とっても良かった。もう一つは、施設から、精神の場合は病院から、自宅とか自分の住みたい地域に移るということ、その理念も大変よろしかったと思います。誰もがそういうふうに、自分の生まれ育ったところ、あるいは、自分が選ぶところで住みたい、そのことを実現するために作られた法律であったはずなんですけども、いざ蓋を開けてみたら、実は全然それがうまくいかないことは、福祉問題に関わっておられる方はほとんど皆さん経験されたと思います。
―悪循環が、まさに起ころうとしている―
まず、当事者の年金が、平均して6万円くらいなんですけども、そして、色々作業所などでいただく工賃というのは、だいたい多くて1万円、まぁ平均して1万2千円って言われてますけど、これは厚生労働省で出してる値段で、実際に私が聞いてみたら、まぁせいぜい6千円ぐらい、月にですね。それからもっと少ないと、百円台という方もいらっしゃる。
それは使命感のある方だけはそういうことをやっておられる。でも、それでもあまりに忙しくて病気になってしまうと、残った人にまた負担がかかって、今ドクターが同じような状況にありますけども、3人で精一杯やってたところで、1人欠けると、その2人の方がまた疲れてしまって、疲れきっちゃう。ということで、そういう悪循環が、まさに起ころうとしています。
―中央の体制は、一人ひとりの障害者、一人ひとりの国民が不在―
堂本:つい最近私は1つのホームを訪ねてきました。
今、尾辻さんおっしゃったように、中央で、しぼってもしぼれない雑巾をしぼるようにしてやっている国民不在の国の財政、それをまず考える。それから制度そのものの体制を立てる。そこにないのは何かっていうと、一人ひとりの障害者であり、一人ひとりの国民が不在です。
―安心して死ねない危機になってきてしまっている―
堂本:千葉県では、分権の時代なんだから、トップから、国から、指示されて何かをするんではなくて、当事者の方に色々伺おう、ということで、当事者の方に集まっていただいて、タウンミーティングを開いて、そして、みんなの意見を聞きながら、福祉の制度作りをしてきました。
そこにまさに立ちはだかるのが、この経済財政諮問会議の決定でございます。
この経済財政諮問会議の目指す社会保障改革は何かと言えば、まず、病気の人、障害者、高齢者が切り捨てられる危機だと認識しています。子供を生んで、そして育てられない危機が生じている。安心して、―これがとても大事だと思います―、死ねない危機になってきてしまっている<「死ねない」を強調>。
樋口:ありがとうございました。<拍手>2千2百億の呪縛が千葉県をどのように困らせているか、困りながらもまた新しい障害者の条例を作り上げていった、県民の元気というのをまた、ご報告いただきました。
―経済財政諮問会議は地方政治の場で大変困っている原因の大元、本当に腹立たしい―
坂本:鳥取県の南部町から来ました坂本です。先ほどもございましたように1万2千人の町でございます。私は平成7年に町長に就任を致しまして、西伯町(さいはくちょう)という町でございました。お隣の会見町(あいみちょう)という町と一緒になりまして、平成16年の10月に新しく誕生した南部町という町の町長に引き続き就任をしております。
福祉や医療を中心に町政をやっていこうということで、ずっと頑張ってきたわけなんですけれども、ご案内のようにこの三位一体改革というような小泉改革の構造改革の中で打ち出されまして、非常に大きな迷惑を受けておる、ということでございます。この南部町に限ったことではございません。全国3千以上あったその当時の市町村が、みんな困っているわけですから、それなりにまぁ頑張らんといけんということで、やっていたわけなんですけれども。先日、尾辻さんの『虫の目になる』を読ましていただいて、本当にまぁ驚きました。
というのは、尾辻さんが、いつも経済財政諮問会議に行く時には、辞表をこのポケットにしまってやっておった、ということであります。
私は町長になるとき、あるいはなってから、学んできたことがあります。経済も、あるいは政治も、国民のための政治だと、経済であるというように聞いてきました。したがいまして、財政再建ということは、もちろん大切な課題でありますけれども、しかし財政が再建されて、そして経済も、あるいは社会生活、国民の社会生活も悪くなった、というようなことでは意味がないわけでありまして。そもそもこの経済財政諮問会議という名前から矛盾が生じているのではないかと感じました。
―枠をはめられ、診療報酬を上げようと思ってもできない―
坂本:私は診療報酬を決定する中央社会保険医療協議会の専門委員をさせていただいております。その場でこのたび診療報酬の改訂があったわけなんですけれども、まず経済財政諮問会議の大枠が決まって、先ほどあった2千2百億円削れ、というような大枠が決まって、その次に、社会保障審議会というのがあって、そこで、枠をはめられます。
しかし、よく考えてみますと、一番大元は、この経済財政諮問会議のそういう方針があって、そしてそれを受けて社会保障審議会があり、そして、その中の枠内で診療報酬の検討もしなければいけない。もう調整するほとんど削りしろがないわけです。
―規制改革のせいで、社会保障に参加しない非正規労働者が3分の1に―
坂本:もう一つあります。経済界の方がおっしゃっておられますけれども、労働ビックバンをやれ、というようなことであります。いわゆる派遣だとか、あるいは嘱託だとか臨時だとか、そういう労働者を取り巻く色々な法制を、規制改革して、そして、雇用主の都合のいいように使う、というようなことではないでしょうか。結果として、結果として、思いとは違うかもわかりませんけれども、労働者の約3分の1の方が、今、ニートだとかフリーターだとか、非正規労働者であります。
―「財政再建成功して、人間再生ならず」、経済財政諮問会議を皆で監視しよう―
樋口:ありがとうございました。<拍手>国から県から町から、今社会保障がズタズタに切られている状況がご報告ございました。
―財源の上ではなくて、「人源」の上から、今まさに崩壊しようとしております―
樋口:今、社会保障は、財源の点を削減しよう削減しよう、ということの中で、今日ここで申し上げたいのは、介護の問題でございます。介護保険は、国民の要望を担って作られた、私達の本当に共通の財産だと思います。うまくいってない面もたくさんあることは知りながら。しかしそれが今や、財源の上ではなくて、人源の上から、人材の上から、今まさに崩壊しようとしております。持続可能な制度、持続可能な制度、と厚労省はおっしゃいますけれど、人材の面から持続不可能になろうとしております。
―あっという間に15万1267筆〜苺一粒たりとも踏むな―
お医者さんの問題はこれから、1セッションじゅうぶんございます。医者不足も大変なことだと思います。
私ども高齢社会をよくする女性の会は、昨年9月20日に、緊急提言の要望書をまとめまして、厚生労働省をはじめ各政党に持ってまいりました。
―ついに介護人材の法案が可決!!!!!!! 絵に描いたもちを本当のもちにしていく―
樋口:私今日ちょっと機嫌がいいのはね、昨日、国会の衆議院厚生労働委員会におきまして、ついに、「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律案」ってのが、可決されました。
とにかく、付帯決議でもなんでもなくて、法律になりました。たちまち朝日新聞さんに、「絵に描いたもち」と言われました<会場笑>。
これで終わりだなどと私どもはちっとも思っておりません。これが始まりであります。おっしゃるとおり、絵に描いたもちでございます。しかし、絵に描いて法律になることによって、何が問題かが見えました。「可視化」ってのはちょっと言いにくいんで、この頃皆さん「見える化」っておっしゃってますけれど、まさに「見える化」して、こういう法律があるんだ。財源の担保はないけれど、ものを語っていく、運動を進めていく根拠になりました。「担保」ではないけど「根拠」になっている。この根拠をもとにして、絵を、本当のもちにしていくのが、私達のこれからの活動ではあるまいか。
〔第二ラウンド〕 |