第1部
「福祉と医療を中心に、社会保障のこれからを考える
〜経済財政諮問会議の呪いから逃れるために〜」
ことしもまた、新たな縁(えにし)を結ぶ会 '08!

―新たな「えにし」が生まれること、結び付きが一層強くなることを願って―

根岸: <チベットの鈴の音>お待たせ致しました。福祉と医療、現場と政策の新たなえにしを結ぶ会、年に一度のえにしを結ぶ会を始めさせていただきます。総合司会を務めさせていただきます、NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンクの根岸親(ちかし)と申します。<拍手>
由紀子さんを通じて、昨年登壇された山本孝史参院議員や、ライフリンク代表の、えーすいません、えー、えー、清水康之さん―緊張しておりまして、申し訳ありません<会場笑>―えにし結び直しの機会をいただき、現在ライフリンクで勤務させていただいております。
えにしの結びの申し子だからということで、若輩ながら、本日の司会を務めさせていただくことになりました。それと、本日の司会はもう一人、デンマーク語堪能な―
福島:司会を務めさせていただきます、福島容子と申します。現在は、横浜市役所の障害企画課に勤めております。<拍手>
由紀子さんが、大阪大学大学院に赴任された2001年にゼミ生となった縁で、この会には第1回から参加させていただいております。若輩者の私に機会を与えてくださった由紀子さんに感謝をしながら、精一杯司会を務めさせていただきますので、よろしくお願い致します。<拍手>
根岸:拙い司会ではございますが、新たなえにしが生まれること、これまでのえにしの結び付きが一層強くなることを願って、精一杯会の進行を務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します。<拍手>

〔情報保障紹介〕
根岸:今日は情報保障を[Flex]の皆さんに、手話通訳、パソコン文字通訳をお願いしております。また、株式会社ソナール様にご協力いただいて、今回も、磁気ループを設置しております。もう既にそのお席のところにいらっしゃるとは思いますが、必要のある方はご移動、よろしくお願い致します。

〔配布資料確認〕
福島:お手元の、カラフルな手提げ袋に入っているかと思います。まず、ピンクのパンフレットが本日のプログラムです。もう1つ、緑のパンフレット、こちらが本日のえにし結び名簿です。是非ご活用ください。。

〔プログラム説明〕
福島:この後すぐ、第1部を始めさせていただきます。第1部の後は、恒例の「えにし結びタイム」です。そして第2部は、15時5分からスタート致し、終了は16時30分を予定しております。第3部の夕べの部は、会場を移して、日比谷公園内のグリーンサロンで開きます。

〔第1部 登壇者紹介〕
根岸:第1部は、「福祉と医療を中心に、社会保障のこれからを考える〜経済財政諮問会議の呪いから逃れるために〜」と題して<会場笑>行っていきたいと思います。
ご登壇いただくのは、左の方から、元厚生労働大臣の尾辻秀久さん<拍手>、千葉県知事の堂本暁子さん<拍手>、鳥取県南部町町長の坂本昭文さん<拍手>、そして、コーディネーターを兼ねて、高齢社会をよくする女性の会理事長の樋口恵子さんにお願いしたいと思います<拍手>。

―経済財政諮問会議と「骨太方針」の「呪い」―

樋口:早速始めさせていただきます。タイトルにありますように、「福祉と医療を中心に、社会保障のこれからを考える〜経済財政諮問会議の呪いから逃れるために〜」<「呪い」を強調>。これ、最初は「呪縛」とあったんですが、あの、何か少し柔らかくするように「呪い」になったようでございます<会場笑>。まあ、むしろしっかり意味が見えてきたと思いますけれど。今、私達が本当に格差が大きく、かつ、生きる安全や安心が脅かされて、本当に日々不安心が高まっている。これの、最大の理由は、今日これからお話いただくことでございますけれど、経済財政諮問会議、この名前は私達絶対に忘れはしまい。

一体、ここで何が行われているか。2006年までの過去5年にわたって、社会保障費は削減されてきました。そして、今、私達がその只中にいますのは、2006年に「骨太の方針」というものが出されまして、その中で引き続いて、今後の5年間で、1兆1千億の社会保障費の伸びを抑制する、ということが決められまして、2006年度、厚生省は、2千2百億を生活保護の母子加算とか、雇用保険などを中心に減らしました。そして、2008年度でも減らしている。2年続いているこの抑制が、まさに「呪縛」「呪い」でございまして、皆様方、地方の生活を直撃しているのであります。

一体この、経済財政諮問会議というところで、何が行われているのか、何がどう決まって、日本の政策がどう動いてきたか。経済財政諮問会議で、厚生労働大臣として呼び出されては集中砲火を浴びてきた尾辻秀久さんから、まず、その全貌をご説明いただきたいと思います<会場笑>。よろしくお願い致します。<拍手>

―日本の社会保障のために、経済財政諮問会議に、ものを言っていきたい―

尾辻:尾辻でございます。厚生労働大臣をさせていただきましたときに、大熊由紀子さんには大変ご指導いただき、その後もまたずっと、お世話に相成っております。
今日は、経済財政諮問会議をやっつける会議だというふうに聞きまして、喜び勇んでやって参りました<会場笑>。
ただ、個人的な恨みでやっつけても、あんまり意味がないと思いますので、日本の社会保障を守るために、今日はしっかりと、経済財政諮問会議にものを言っていきたい、というふうに思います。
これだけ、ご参加の皆様方おられますけれども、そして、事務方として、経済財政諮問会議に陪席をしていた方のお顔が会場に何人か見えるのでありますが、正式なメンバーとしてあそこに座っていたのは私一人だというふうに思いますので、今日はその辺の話をさせていただきまして、個人的な恨みも晴らさせていただきたい<会場笑>というふうに思っておるところでございます。
未だに、経済財政諮問会議というふうに聞きますと、反射的にファイティングポーズになるもんですから<会場笑>、ここで恨みを長々と語りますと明日の朝までなりそうでありますから、できるだけ要点だけを申し上げたいと思います。

―「国会決議なんて無視すればいい」という民間委員の思い上がり体質―

尾辻:そもそも、経済財政諮問会議っていうのはどういう存在かって言いますと、これはちゃんと、法律で定められておる存在であります。総理に諮問する会議なんです。ところが、総理に諮問する会議なのに、なんと座長は、諮問される総理が務める。これはやっぱりおかしいというふうに思います。ですから小泉さんみたいに、これうまく使おうと思えば、自分に仕掛けて諮問をさせといて、諮問会議に言われたんだからやるぞー、と、もう全部これで済んでしまうということになります。
先ほど「正式のメンバー」と言いましたけれども、正確に言いますと、厚生労働大臣は、臨時として、ときに呼ばれるメンバーの一人でございます。呼ばれるときは、呼んでおいて一人座らせて、完全に被告席に座らした気分で、言いたい放題言うわけであります。で、現職の閣僚もメンバーの中にいるのでありますけれども、この人達はほとんど、もの言いません。

4人の民間議員という人達がいます。その4人の内訳は、2人が財界の方でありまして、2人が学者さんであります。この4人が、一方的にものを言います。4人が一斉にものを言うわけでありますから、せめて、1人が言ったときに、その1人に対して私に反論させてくれ、と言ったんですが、それも許されず。4人に一方的にまくし立てられた後、あんまり時間もないから最後に10分やるから、10分で反論しろと言われる。
反論できないじゃないか、と言っておったのが実は実態であります。そういうところだということも、この機会に是非知っておいていただきたいと思って、申し上げておるところであります。

一番、象徴的な、この人達の体質、思い上がりを申し上げますと、私がこういうことを言ったことがあるんです。あなたがたの言うことと、国会決議と反する。国会決議に反することをやれというのか、と、こう言いましたら、なんと、「国会決議なんて無視すればいいんだ」と言い放ったのであります。これ事実であります。
私はそれ聞いた瞬間に「今、何と言った!」と流石に言ったんですが、向こうも慌てまして、「これは無かったことにしてくれ」と言いまして、議事録から消してしまいました。議事録にないことをいいことに、先日私が代表質問でこれを言うと、―実は代表質問なんていうのは、原稿は前の日に届けてあるわけであります。その原稿を見て、質問を考えて次の日に総理が質問する、とこういうことなんでありますが、ですから前の日に質問は届けてある―、そしたら、議事録にないことをいいことに、確認できないからこの部分は消してくれと言ってきました。

私は、本人が覚えてるんだから、覚えてる本人が、自分の責任で発言するから構わんでくれ、とこう言いましたら、またその晩こっそり来て、当時の人達に聞きましたら、そういう事実があったようでございます、などと言っておりました。したがってまぁこれは、まったく事実でありますけれども、これが、経済財政諮問会議、民間議員の思い上がりを象徴した話だというふうにお聞きをいただきたいと思います。
こんな話をしておりますと明日の朝まで延々と<会場笑>恨みを晴らすことになりますので、この辺で、そうしたところは止めておきたいと思います。

―「5年間で、1兆1千億削れ」―

尾辻:経済財政諮問会議と今後、まだやりあわなきゃいけませんけれども、一番の問題は、彼らは、とにかく、もう、経済そして財政至上主義者でありますから、財政を立て直さなきゃいけない。そのためには、まぁちょっと言葉は過ぎるかもしれませんけれども、国民が泣こうと知ったことかというくらいの感覚の人達だと思います。
そこで、なんと言ってるか、2010年代初頭に、プライマリーバランスを回復させなきゃいかんと言っとるわけであります。プライマリーバランスってのはどういうものか、回復させるっていうのはどういうことか、っていうのを話をしますともう長くなりますから、ただ、財政を立て直そうと言ってるんだと思っていただきたいと思います。
そこで財政立て直すために、社会保障費を削れ、削れの一辺倒であります。そして最初になんと言ったかというと、2002年から2006年までの5年間で、1兆1千億削れ、と、こういうふうに言ったのであります。

誤解のないように申し上げておきますと、社会保障費っていうのは義務的経費が大半でありますから、自然増を致します。お年寄りに対しては、これだけのことをしなきゃいけないっていうのは、ほとんど法律に書いてありますから、そうしますと、お年寄りの数が増えれば、当然自動的に、そのお金は増える。その当然増える、ここから、1兆1千億削れ、と言ったんだということは、誤解のないように申し上げておきたいと思います。
いずれに致しましても、5年間で1兆1千億削れと言ったわけでありますから、毎年2千2百億削ったわけであります。1兆1千億を5で割ると2千2百億ですから、2千2百億ずつ、毎年削ってきました。そしてその5年が終わったのが、申し上げたように、2006年であります。

―乾いた雑巾しぼったって水なんか出やしない―

さぁこの後どうするか、という議論になったときに、引き続き彼らは、これからの5年間も同じようにやれ、と言いました。で、大議論したんです。もう絶対そんなことはできないと言い、まぁ色んな抵抗をしましたが、せめて私どもにできた抵抗は、今後の5年間について、「これまでの5年間を踏まえて」という(言葉)、実は「5年間と同じように」と書くと言ったのを、「踏まえて」に、せめて書き換えさせたというのが、抵抗をした、まぁ結果であります。毎年これもやりあうんですが、経済財政諮問会議、財務省は、「踏まえて」と言ったってこれは「同じように」ということなんだから、2千2百億削れという意味だと言い、昨年度も、そして4月1日から始まった今年度も、何とか2千2百億を削ってきました。しかし、もう今年の予算の中で2千2百億削減するためにどんなことをやったかなんていうことを、申し上げると、もう、これまた大変長い話になるので、申し上げません。

ただ、医療関係者も沢山お見えでしたから、一言申し上げますと、一時期、診療報酬で全部削れと言ったんです。そうするとどうなるか。診療報酬で2千2百億削れって言いますと、今、だいたい診療報酬1パーセントで、国の持ち分8百億減りますから、8百分の2千2百パーセントを削らなきゃいけない。ひところ、「3パーセントの診療報酬カット」と言ってたのは実はそういう話であったわけであります。
そんな色んないきさつがありますけれども、とにかく、そこを何とかしのいで、今年までやった。しかし、もう、―先日私は言ったんですが―、これ以上2千2百億削れと言われたら、日本の社会保障が死ぬ。もう乾いたタオルを、乾いた雑巾しぼったって水なんか出やしないだろう。代表質問で言ったのは実はそういうことであります。

そして、6月に毎年彼らが「骨太の方針」っていうのを書くんです。「骨太の方針」というのは、来年度予算をどういうふうに組むかの基本方針だと思っていただければいいんです。それを、今年の6月、彼らが書きます。ここで絶対に2千2百億、また削れと書こうとしてますから、これを書かさないことが、我々の勝負だという、まさに呪縛から逃れるにはそれしかない。ということを申し上げて、私のまずこれまでのお話にさせていただきたいと思います。今日はどうぞよろしくお願い申し上げます。<拍手>

―骨太の骨だけ残って血も肉も無くなる―

樋口:ありがとうございました。驚きましたね。経済財政諮問会議、法律に則った組織とは言いながら、議会制民主主義を否定するようなやりとりが、そこで行われているなんてことは、今日は本当に、お話を聞いて、初めてよくわかりました。骨太の方針が6月だそうでございまして、今日はとてもいいチャンスだと思います。骨太の骨だけ残って血も肉も無くなるというのが、これからの方針次第によってはそうなると思います。

そのような政策が、では、より身近な都道府県にくると、どのようなことになるか。堂本知事は、障害者の問題をはじめ福祉に一生懸命取り組んでいらっしゃいましたけれど、今どうでしょう。千葉県ではどうなっておりますでしょうか。

―ふやさなければならないときに減らした、うまくゆくはずがありません―

堂本:ええ、もうとても大変です。今、尾辻さんおっしゃったようなことが、実際に現場でどういうことになっているのか。今日もここに集まっていらっしゃる方は、一番よくご存知だと思います。

2001年、森総理のときに始まった、この経済財政諮問会議なんですけれども、2003年に、―ちょうど私が知事になった年です―、2003年に、今度は小泉総理になられて、競争力、成長力、財政健全化というのを高らかとうたったのは、2006年の「骨太の方針」でございます。それからというもの、福祉関係の制度が変わりました。自立支援法、介護保険、1兆1千億増やしても足りない。そのくらい、増やさなければならないときに、これだけ減らしたのですから、うまくいくはずがございません。

自立支援法を例に挙げて言わしていただきますと、身体障害、知的障害、精神障害のうちの精神障害が、今までの福祉サービスの対象になっていなかった。それを、三障害を一緒にしようという、この理念は、とっても良かった。もう一つは、施設から、精神の場合は病院から、自宅とか自分の住みたい地域に移るということ、その理念も大変よろしかったと思います。誰もがそういうふうに、自分の生まれ育ったところ、あるいは、自分が選ぶところで住みたい、そのことを実現するために作られた法律であったはずなんですけども、いざ蓋を開けてみたら、実は全然それがうまくいかないことは、福祉問題に関わっておられる方はほとんど皆さん経験されたと思います。

―悪循環が、まさに起ころうとしている―

まず、当事者の年金が、平均して6万円くらいなんですけども、そして、色々作業所などでいただく工賃というのは、だいたい多くて1万円、まぁ平均して1万2千円って言われてますけど、これは厚生労働省で出してる値段で、実際に私が聞いてみたら、まぁせいぜい6千円ぐらい、月にですね。それからもっと少ないと、百円台という方もいらっしゃる。
そうすると、自立しなさいといわれても、とてもじゃないけど、自立できない、というのが一方にあります。
それでは、グループホームとか、自立できるようなホームが色々あるかと言えば、むしろない。そして何よりも、介護も同じですけれども、そこで働く、お世話をする方の給与がなんと低いことか。国は月額、22万円くらいという言い方をされてますけれども、実際に足で歩いて聞いてみると、施設長さんで月給17万円、18万円というような額でございます。これでは、食べていくだけでも大変。

それは使命感のある方だけはそういうことをやっておられる。でも、それでもあまりに忙しくて病気になってしまうと、残った人にまた負担がかかって、今ドクターが同じような状況にありますけども、3人で精一杯やってたところで、1人欠けると、その2人の方がまた疲れてしまって、疲れきっちゃう。ということで、そういう悪循環が、まさに起ころうとしています。

―中央の体制は、一人ひとりの障害者、一人ひとりの国民が不在―

堂本:つい最近私は1つのホームを訪ねてきました。
実は千葉県は、私が就任したとき、袖ヶ浦に、5百人規模のコロニーがあった。それを、できるだけ地域へ帰っていただくということで、ずっとその作業を続けてまいりました。
今は、どうしてもそこにいなければならないとか、一定の期間訓練をする方だけがいるようなことに移行をしつつあって、ほとんどできあがってきたんですが―、その私が行ったグループホームは、まさにそこから来た方ばっかりでした。1つのホームに9人くらいおられる。施設に30年ぐらいいた、という60〜70歳くらいの人達です。工賃を聞きますと、6千円くらい。小さな安全ピンを固めるような、そんな作業をしてる人達でしたけども。これでは、とてもやっていけない。

今、尾辻さんおっしゃったように、中央で、しぼってもしぼれない雑巾をしぼるようにしてやっている国民不在の国の財政、それをまず考える。それから制度そのものの体制を立てる。そこにないのは何かっていうと、一人ひとりの障害者であり、一人ひとりの国民が不在です。

―安心して死ねない危機になってきてしまっている―

堂本:千葉県では、分権の時代なんだから、トップから、国から、指示されて何かをするんではなくて、当事者の方に色々伺おう、ということで、当事者の方に集まっていただいて、タウンミーティングを開いて、そして、みんなの意見を聞きながら、福祉の制度作りをしてきました。
最終的に行き着くのは、やはり国の制度が邪魔をして、なかなかうまくいかない。それでも、私達は、全部の公を行政が担うのではなくて、皆ができるところは、お互いに助け合っていこう、と。私達それを『ブレーメンの挑戦』と呼びました。、
ロバと犬と猫と鶏、皆歳とっちゃって捨てられたり、殺されそうになったりした、こういった動物達が、助け合って泥棒をやっつけて楽しく暮らしたそういうグリム童話ですけど、これと同じような意味で、高齢者も障害者も、精神も身体の人も、皆で助け合って、それでお互いに、持ってる能力をフルに活用してやってこうと、そういう挑戦でございます。
最終的に、障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県の条例を作りました。

そこにまさに立ちはだかるのが、この経済財政諮問会議の決定でございます。
私も尾辻先生と一緒に当時は自社さ連立という与党で医療の問題をご一緒にやってたんですけれども―、国会という場で議論して議論して議論して、それから霞ヶ関のお役人の方達が専門性を持って、歴史的な経緯を踏まえて、その時点で、なんとかやっていこうという努力を私達がしきたというのに、国民の代表である国会議員を無視して、たった3人か4人の人で、こんなに日本の、すべての国民に関わるようなことが決定されて、大不便を被っている。

この経済財政諮問会議の目指す社会保障改革は何かと言えば、まず、病気の人、障害者、高齢者が切り捨てられる危機だと認識しています。子供を生んで、そして育てられない危機が生じている。安心して、―これがとても大事だと思います―、死ねない危機になってきてしまっている<「死ねない」を強調>。
そして、障害者の問題で言えば、障害とは何なのか、という原点に戻って考えることがされておりません。同時に、障害者の高齢になったときのことが、きちっと、踏まえられていません。北海道から沖縄まで、今日各県からお越しですけども、それぞれの地域で皆困ってる。このことを経済財政諮問会議に出てる経済界の方はご存知なんでしょうか。本当に困ります。もう一億全部、すべての国民が困ってることを2、3人で決められるようなそんなシステムはとんでもないと思っております。

樋口:ありがとうございました。<拍手>2千2百億の呪縛が千葉県をどのように困らせているか、困りながらもまた新しい障害者の条例を作り上げていった、県民の元気というのをまた、ご報告いただきました。
樋口:ところでこれが鳥取県南部町というところへ行きますと、どのような形になって現れているでしょうか。南部町というのは、坂本さん、人口何万くらいですか。
坂本:1万2千人です。
樋口:1万2千人の鳥取県の町からのレポートでございます。

―経済財政諮問会議は地方政治の場で大変困っている原因の大元、本当に腹立たしい―

坂本:鳥取県の南部町から来ました坂本です。先ほどもございましたように1万2千人の町でございます。私は平成7年に町長に就任を致しまして、西伯町(さいはくちょう)という町でございました。お隣の会見町(あいみちょう)という町と一緒になりまして、平成16年の10月に新しく誕生した南部町という町の町長に引き続き就任をしております。

福祉や医療を中心に町政をやっていこうということで、ずっと頑張ってきたわけなんですけれども、ご案内のようにこの三位一体改革というような小泉改革の構造改革の中で打ち出されまして、非常に大きな迷惑を受けておる、ということでございます。この南部町に限ったことではございません。全国3千以上あったその当時の市町村が、みんな困っているわけですから、それなりにまぁ頑張らんといけんということで、やっていたわけなんですけれども。先日、尾辻さんの『虫の目になる』を読ましていただいて、本当にまぁ驚きました。

というのは、尾辻さんが、いつも経済財政諮問会議に行く時には、辞表をこのポケットにしまってやっておった、ということであります。
で、よく聞いてみますと、尾辻さんも、また川崎二郎さんも、津島雄二さんも、厚生労働大臣を歴任された皆さん方が、本当に経済財政諮問会議に大変な目に遭っておると。しかし体を張ってそこで頑張っておられるということを聞きましてですね、非常に感動しました。
で、このような場所に来させていただいている縁にもなったわけですけども。

私は町長になるとき、あるいはなってから、学んできたことがあります。経済も、あるいは政治も、国民のための政治だと、経済であるというように聞いてきました。したがいまして、財政再建ということは、もちろん大切な課題でありますけれども、しかし財政が再建されて、そして経済も、あるいは社会生活、国民の社会生活も悪くなった、というようなことでは意味がないわけでありまして。そもそもこの経済財政諮問会議という名前から矛盾が生じているのではないかと感じました。
人々のくらしを支える社会、人間のくらしを支える、そういう視点が欠けているのではないかなぁ、と思ったわけです。でよく調べてみましたら、厚生労働大臣は、メンバーではありません。ほんの閣僚の何名かがメンバーでありまして、一番大切なこの厚生労働大臣がそのメンバーではないというようなこと。それから、民間の大学の先生が2名と、経済界の方が2名、入っておられて、そして、規制緩和というようなことを通じて、経済界がかつてないほど政治の場で力を持ち出したというようなこと。
すなわち、規制緩和をすれば、例えば、労働法制を緩和すれば、労働者から経営者のほうに冨の配分が行くわけですね。そういうことが、現実的に行われているというようなことがわかりました。国会議員が、722人も衆参でおられるわけですから、私は、その国民の洗礼を、選挙の洗礼を受けた国会議員が、ちゃんと政治の責任を果たすべきであって、なぜわずか3人や4人の民間委員さんにそういう大事な部分を委ねていくのか。本当に腹立たしく思います。
そういうことがあって、私は、経済財政諮問会議の進める我が国の経済財政運営というものに、批判的にならざるを得ない。私どもが、地方政治の場で大変困っておるその原因の大元が、経済財政諮問会議にあったというようなことで、今改めて、腹立たしく思っているわけです。

―枠をはめられ、診療報酬を上げようと思ってもできない―

坂本:私は診療報酬を決定する中央社会保険医療協議会の専門委員をさせていただいております。その場でこのたび診療報酬の改訂があったわけなんですけれども、まず経済財政諮問会議の大枠が決まって、先ほどあった2千2百億円削れ、というような大枠が決まって、その次に、社会保障審議会というのがあって、そこで、枠をはめられます。
したがって、診療報酬をどんなに上げようと思っても、これはできないわけであります。
6年間ずーっと診療報酬が下がってきたわけですけれども、今年わずかですけれども、0.3、4くらいだったでしょうか、下げ止まりを、本体部分では致しました。
これは薬価の部分を押さえて、本体部分に若干回して、医療の崩壊を防ごうというようなことでやったわけなんですけれども、本当にそれは微々たるものであります。

しかし、よく考えてみますと、一番大元は、この経済財政諮問会議のそういう方針があって、そしてそれを受けて社会保障審議会があり、そして、その中の枠内で診療報酬の検討もしなければいけない。もう調整するほとんど削りしろがないわけです。
日本の今の様々な弊害というようなものが、この諮問会議にあるということは、皆さん方に是非、これは知っておいていただきたいな、と思って、お話をさせていただきました。

―規制改革のせいで、社会保障に参加しない非正規労働者が3分の1に―

坂本:もう一つあります。経済界の方がおっしゃっておられますけれども、労働ビックバンをやれ、というようなことであります。いわゆる派遣だとか、あるいは嘱託だとか臨時だとか、そういう労働者を取り巻く色々な法制を、規制改革して、そして、雇用主の都合のいいように使う、というようなことではないでしょうか。結果として、結果として、思いとは違うかもわかりませんけれども、労働者の約3分の1の方が、今、ニートだとかフリーターだとか、非正規労働者であります。
そういう人がたくさん出れば、この社会保障制度に参加しないわけであります。社会保障制度に参加しなければ、結局、世代連帯の社会保障制度は崩壊せざるを得ない、ということであります。こういうことが、今後このまま放っておけば、年々厳しくなってくる、ということでございます。
そして、その厳しさを受けるのは、高齢者や女性や子供や、あるいは、地方だとか、そういういわゆる弱者のほうに、全面的にしわ寄せが来る、ということで、危機感を持っているところであります。

―「財政再建成功して、人間再生ならず」、経済財政諮問会議を皆で監視しよう―

樋口:ありがとうございました。<拍手>国から県から町から、今社会保障がズタズタに切られている状況がご報告ございました。
まさに財政再建成功して、人間再生ならず。もう少子化という形で人間の再生が阻まれていることは私達もうよくわかっているではありませんか。
今日私は司会役も仰せつかっておりますが、樋口はすぐしゃべりすぎるから司会でもさせておけという<会場笑>、そういうことらしいんですけど、国でしょ、県でしょ、町でしょ、それから民間団体ですね。
私は今日は、NPO法人の理事長と致しましても、若干発言を許されておりますので。配分はだいたいね、あの、皆さん、私絶対守るようにしますからね。あのね、お三人が1人20分。1時間15分しかこの時間ありませんから。私は15分で済ませます。あの、しっかり守りますから、どうぞ皆さん、監視してください。
なんだって監視しなきゃ駄目なんですよ。経済財政諮問会議だって今日を境に、皆で監視しようじゃありませんか。

―財源の上ではなくて、「人源」の上から、今まさに崩壊しようとしております―

樋口:今、社会保障は、財源の点を削減しよう削減しよう、ということの中で、今日ここで申し上げたいのは、介護の問題でございます。介護保険は、国民の要望を担って作られた、私達の本当に共通の財産だと思います。うまくいってない面もたくさんあることは知りながら。しかしそれが今や、財源の上ではなくて、人源の上から、人材の上から、今まさに崩壊しようとしております。持続可能な制度、持続可能な制度、と厚労省はおっしゃいますけれど、人材の面から持続不可能になろうとしております。
これには医療崩壊と呼ばれるものと、介護崩壊と呼ばれるものと、両方ありまして、地域差があることは百も承知で申し上げますけれど、人材難の景気の良い大都市周辺などは、もう介護現場から人々が逃げていく。離職率は1年に20パーセントといったら、一般、全体(の)企業だって16パーセントだ、という反論が返ってきましたけれど、職種別に言えば、一番離職率が高いのが飲食業、その次に介護が来ちゃってるってのはちょっとやっぱり多すぎるのではないでしょうか。そして、給料は、今堂本さんもおっしゃいましたけれど、16、7万もらっていればいいほう、本当に、ワーキングプアとは我々のことかと言われるような状況の中で働いています。

―あっという間に15万1267筆〜苺一粒たりとも踏むな―

お医者さんの問題はこれから、1セッションじゅうぶんございます。医者不足も大変なことだと思います。
ただ、医療者不足と、介護者不足とどこが違うかというと、違う点が一つあるとすれば、医者は、天下の秀才が未だに入りたがってひしめいてるんです。そうなんです。それから介護専門学校は、去年の充足率、去年ですから今の2年生の専門学校の充足率が約70パーセントだそうでございますが、今年はまだ集計できていないはずですが恐らく、50パーセントを割っているだろうと思います。
もう、なりたいという人が、その専門の学校へ入らなくなった。こういう人材のとぎれというものは深刻です。それから、介護現場のきつさ。これは由々しいことだと思います。これも二度にわたる介護報酬削減の中で、ますます厳しくなっております。

私ども高齢社会をよくする女性の会は、昨年9月20日に、緊急提言の要望書をまとめまして、厚生労働省をはじめ各政党に持ってまいりました。
それから、署名運動を集めたところ、あっという間に15万1267筆、「苺一粒たりとも踏むな」というんですけどね<会場笑>、その15万1267筆が集まり、本当はリヤカーで引いて官邸へ持ってけば良かったんですけれど、まぁ厚生労働省へ持ってったら、どっか一部屋の隅に今んとこまだ燃さないで置いてあるということでございますけれど<会場笑>、でもそれから緊急集会を開きました。この、経済財政諮問会議の呪縛から解き放たれよう、そのためには私達自身がお互いに力を付け合って、活動をしていくという、きょうを、その日にもしていきたいんです。困る困る困るの現状、それはもうしっかり出さなきゃいけない。だけどこうすれば少しは突破口が開くんだよって。

―ついに介護人材の法案が可決!!!!!!! 絵に描いたもちを本当のもちにしていく―

樋口:私今日ちょっと機嫌がいいのはね、昨日、国会の衆議院厚生労働委員会におきまして、ついに、「介護従事者等の人材確保のための介護従事者等の処遇改善に関する法律案」ってのが、可決されました。
まぁなにはともあれ、私どもの提言から民主党さんが、法案を作ってくれました。介護人材確保法。私達は、初任給で3万円上乗せするくらいのことしなくちゃ駄目だと、「3万円法」と言ってたんですけど、民主党法案になった途端に1万円値切られて、「2万円法」になっちゃいまして。今回はもう本当に何もありません、たった5行の法律であります。
しかし、法律になりました。平成21年4月1日までに、介護従事者等の賃金水準その他の事情を勘案し、介護従事者等の賃金をはじめとする処遇の改善に資するための施策のあり方について検討を加え、必要があるとしたらそれをしなければならないって。

とにかく、付帯決議でもなんでもなくて、法律になりました。たちまち朝日新聞さんに、「絵に描いたもち」と言われました<会場笑>。
その通りであります。その通りであります。これは何の担保もありません。どこから予算を持ってくるか。何の担保もないけれど、きちんとした根拠なのです。日本は法治国家であって、とにかく、付帯決議でもなんでもなくて、法律にしっかりすることができました。

これで終わりだなどと私どもはちっとも思っておりません。これが始まりであります。おっしゃるとおり、絵に描いたもちでございます。しかし、絵に描いて法律になることによって、何が問題かが見えました。「可視化」ってのはちょっと言いにくいんで、この頃皆さん「見える化」っておっしゃってますけれど、まさに「見える化」して、こういう法律があるんだ。財源の担保はないけれど、ものを語っていく、運動を進めていく根拠になりました。「担保」ではないけど「根拠」になっている。この根拠をもとにして、絵を、本当のもちにしていくのが、私達のこれからの活動ではあるまいか。
それが2千2百億の呪縛から逃れる第一歩ではないかと申し上げまして、私の報告とさせていただきます。皆様のご署名のお陰です!ありがとうございました!<拍手>

〔第二ラウンド〕
樋口:というわけで尾辻さん、どうぞ、経済財政諮問会議に対する問題点の指摘、第二ラウンドをよろしくお願いします。(続く)

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